ボクの嫁 私の嫁 〜その5

高校2年の夏休みが終わり、新学期が始まった。
高校生活も残り半分、このままでいいのだろうか?
いや、ダメだ。変わらなくては。
もっと高校生活を有意義なものにしたい。


キミキスには、そんな主人公・相原光一(つまり私)がいた。
そして、当時、なんとなくだが、彼に自分を重ね合わせていた部分があった。
「自分を変えたい」そういう部分。
「自分を変える」にはどうしたらいいのか?
相原光一くんはどう変わっていくのだろうか?
キミキスやりながらぼんやり思っていた。


キミキスにハマって、しばらくして、ついに星乃さんを攻略する順番になった。
ゲームの設定では、相原光一くんは星乃さんが好きだという話だが、
私にはそんな感情はなかった。感情移入できなかった。
「好きな人が相手という感情移入はできずとも、
クラスメイトの一人が恋愛対象なら感情移入できるだろう」
そういうスタンスでゲームを進めた。


今回は星乃さんLv.0の思い出を述べる。



新学期が始まり、学校に登校すると、廊下で星乃さんにばったり会った。
だが、普段からあまり女子とは会話していないこともあり、
挨拶するのも、しどろもどろになってしまい、気まずくなってしまった。
「クラスメイトとろくに話できないようじゃダメだな…」
消極的じゃダメだ!積極的になろう!
そうでなければ自分を変えることができない。
そう思った。



星乃さんって、どんな人?
あまりよくは知らないけど、クラスメイトのせいか、よく見かける気がする。
おとなしめで控えめな女の子である。
その辺は私と同じ…ともいえるかもしれない。


たまに花壇で水やりしているのを見かける。
自分が当番じゃないのに、どうしてそんなことをするのか、私には分からない。
「好きでやってる」とのことなので、
「ふーん」としか言えないが、なんとなく「お人好しなのかな?」とか思ったり。


そういえば、図書館でもよく見かける。
本が好きで、図書委員をやっているようだ。
本を読んでいるときに、話しかけて驚かれたが、
「そこまで驚くことないじゃないか」とか思ったり。



少し積極的になろう。
そう思い始めて、少しずつ変えていこうと決心した。
朝、会ったら「おはよう」と挨拶したり、
少し話しかけてみたり、などいろいろやってみた。
…そりゃあ、全部が上手くいったわけではない。
挨拶したって、「え?」的な態度をとられたり、
話しかけて、微妙な空気が流れたりしたこともあった。
うん、だから長くは続かなかった。


でも、星乃さんとは偶然図書室で借りた本がきっかけで、
次から話しやすい雰囲気になった気がする。
(世の中、何がきっかけになるのか分からないし、
 思わぬ結果になることもあるものだと思う。)


星乃さんと話していると本当に本が好きなんだなーなんて思う。
本の話をしているときの星乃さんはいつもと違い、
生き生きとして、目が輝いている。
たまにしか本を読まないせいか、
熱く語る星乃さんの話を全部は理解できないけど、
その本が楽しそう、面白そうだという雰囲気は伝わる。
本が好きだから、出てくる言葉も本に対する想いでいっぱいで
その想いがきっと私に伝わっているのだろう。
星乃さんの本に対する想いを聴くのは非常に楽しかったし、
生き生きとした星乃さんを見るのは、こちらも嬉しかった。
ときに可愛いなとすらも感じた。


きっかけがあって、話しかけたことで、
こうしてクラスメイトの一人と気軽にしゃべれるようになった。
私としては「少し積極的になってよかったな…」なんて思った。



そんなある日、ふと星乃さんのことがもっと知りたくなった。
本以外のこと。
色々聞くことはあったはず。
食べ物のこと。音楽のこと。運動のこと。勉強のこと。etc...


後々になって、自分でもなんでそんなこと聴いた?と思う。
生き生きとした星乃さんを見て、かわいいと感じ、
男の人と付き合ったことあるのかな?なんて思ったのだと思う。
それであんなことを聞いたのだ。


「星乃さんは…キスしたことある?」


言ってすぐに星乃さんが驚き、その声にハッと我に返った。
親しくなって間もない相手に何を聞いたんだ、私は…と。
「ごめん、どうかしてた!今言ったこと忘れて!無かったことにして!」
そう言いかけて、星乃さんが口を開いた。


「…したことない」


「え?」と思った。
突然、そんなことを聞かれて、答えると思っていなかったから。
不愉快な想いをさせてしまい、不機嫌にさせてしまったと思ったから。
ところが星乃さんは、恥ずかしそうに「したことない」と答えた。


私は変なこと聞いて申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
それでも星乃さんは「気にしないで」と言った。
優しいなぁと思った。
こんな質問に親切にも答えてくれるなんて…と。


当然違和感はあった。
星乃さんのような、内気で恥ずかしがり屋な性格の娘が
親しくなって間もない人にあんな質問されて、親切に答えてくれた。
そのときは「ああ、優しい娘なんだな」と思い、
それ以上は気にはしなかったが、若干疑問に思った。



多少の疑問が残ったが、こうして星乃さんと出会った。
これから、星乃さんと多くの思い出を作っていくことになる。


ということでつづく。


その4  その6

星乃さん! 少し…話さない…?