ボクの嫁 私の嫁 〜その12

その11から2ヶ月たってしまったけれども、気にしないで進める。
星乃さんとの思い出。今回で一つ区切りをつける。


学園祭の日。
星乃さんが転校する日。
その日はあっという間に訪れ、何事もなく終わってしまった。
部活には入っていなかったけれど、
その分クラスの出し物の仕事に追われ、忙しく学園祭を過ごした。
星乃さんは輝日南高校で過ごす最後の日ということで
クラスの女子全員が星乃さんと一緒に過ごしていた。
だから、私は星乃さんと学園祭をまわることはなかった。


後夜祭。
皆が体育館やグラウンドに出はらっている中、
人気のない校内をうろついていた。
星乃さんと図書室で待ち合わせをしていたから。
図書室、カウンター、そこに一人座る星乃さん。
彼女は私がカウンターに近づくと微笑んで問いかけた。


「図書室には何の御用で?」
「待ち合わせをしているんです。」
「どなたと?」
「目の前の女の子と。」


笑いあっていた。
星乃さんとこんな会話をするなんて少し前では考えられなかった。
……でも、もうすぐお別れする。そう思うと切ない気持ちになった。
そして、それは星乃さんも同じだと……あのプールのキスで気づいた。


星乃さんから借りた本。あれから一生懸命に読んだ。
一人の高校生の男の子の話だった。
男の子は転校が決まっており、
転校するまでの男の子の学校生活と苦悩が描かれていた。
新しい場所で上手くやっていけるのか?
転校したら皆、自分のことを忘れてしまうのではないか?
好きな人に想いを告げたいが、
相手は遠くに行ってしまう者の想いを知って、迷惑ではないか?
好きな人への想いは変わらないだろうか?
しかし、その問いかけの答えは最後まで描かれなかった。


なぜ、星乃さんは私にこの本をくれたのだろうか?


「もうすぐ星乃さんとお別れだね」
「ええ、そうね」
「星乃さんと話すようになってからだいぶ経つけど、星乃さん変わったよね」
「そうね…私、転校が決まってから不安だったの…
 このまま何事もなく転校していいんだろうか、って…」
「星乃さん…」
「ううん、ダメ。積極的にならなきゃ、って。もっと頑張らなきゃ、って。
 そう思ってたの。でも、全然うまくいかなくて…」
「…………」
「そんなとき、ずっと好きだった人から話しかけてもらえたの。すごく嬉しかった」
「え……?」
「その人はね、私のことをいつも気にかけてくれて、いつも私の力になってくれたの。
 とても、とても嬉しかった…」
「それって……」


私じゃないか…?
だから以前、「キスしていい?」とか聞いても答えてくれたのか…?
私のことを想ってくれているから、そして私と関わっていられるのもわずかだから、
私の想いに応えてあげたい……そういうことだったのか…?


星乃さんの想いを知り、星乃さんが私の想いを受け止めてくれていたことを知った。
星乃さんは私の行動を黙って受け止めてくれていたことに気づいた。
想いを受け止めてくれていたことに気づいた。
ならば、私も星乃さんの想いを受け止めたい。
私は誓った。「私は星乃さんをずっと支える」と。
星乃さんが転校して、遠くに離れてしまっても、星乃さんの力になる。
星乃さんが望むなら。
そう決めた。


星乃さんを抱きしめた。
溢れる想いのすべてを伝えるように。


新しい場所になじめるようにアドバイスする。精神的にも支える。
皆が星乃さんのことを忘れても、私だけは絶対に忘れない。
手紙でも電話でもなんでもいい、必要ならば会いに行く。
どんな方法でも星乃さんの力になる。星乃さんに不安な想いをさせない。
そして、そんな星乃さんへの想いは絶対に変わらない。
星乃さんから借りた本に対する反抗かもしれない。
皆が星乃さんを忘れたり、想いが変わったりすることなんか絶対にない。
それを自分が証明してみせる。


支えが必要な星乃さんをこの私が支える。


私は彼女に「好きだ」と伝えた。




以上が星乃さんとのスキルートの思い出。


物事に消極的な星乃さんを見て、自分と重なる部分を思いつつ、
転校に不安や悲しみを感じる星乃さんを支えてあげたいという気持ちになった。
「私がついていないといけないんだ!」なんて考えを最初は持っていた。
これが星乃さんを好きになった最初のきっかけかな、と思っている。
だけど、もっとこれから星乃さんを好きになっていくし、
私の考えについて色々なことを改める必要があることに気づいた。
それは次回以降、話していく。


ということで、次回以降は別の話を。


その11
その13



星乃さん、また会おうね…。